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普段、家が隣で家族同然なのをいいことに、勝手に私の家に入ってくる彼。でも、私が浴衣姿のせいか、入るのを躊躇しているようだった。
私は、彼にそう言うと
「入る」
当然だろ、と言いたげに家の中に入った。どうせ師匠のお使いで来たんだろう。
リビングに彼を通すと、私は彼にいつもの通り、アイスコーヒーを差し出した。彼はありがと、と言いながらそれを受け取った。
「お前がお祭りなんて、珍しいな。子供のころ以来だろ?」
「うん」
否定、しなかった。
最後にお祭りに行ったのは、まだ小学生の時で、やはり今日の杏樹のように、一人で行くことを学校側に禁止され・・・当時中学生だった憲一さんに手を引かれて行ったのだ。
杏樹くらいの歳の頃、だった。
あれ以来、行っていない。
もう、何年くらい、あのお祭りに行っていないんだろう・・・
「・・・誰と行くんだ?」
「え?」
「男と、か?」
その言葉には、少しとげがあったような気がした。私は首を横に振った。
「杏樹に頼まれたのよ」
決して私の意志ではない・・・言葉の裏にそんな思いを隠しながら、私はそれに答えた。
そう、私の意志などではない・・・私一人だったら、お祭りなんて行こうともしないだろう。
全部、杏樹がいるから、杏樹に頼まれたから・・・
「まあ、それはいいんだけどさ」
軽く息を吐くと、彼は言葉をつづけた。
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