第5章

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そんなんじゃ、秋のコンサート、まともな演奏でいないぞ!」 ・・・また師匠・・・か。  私はため息をついた。  “師匠が”、“母さんが”・・・彼の常套句だ。  そして・・・私の一番嫌いなフレーズ。  言われたら、私はそれ以上、反論出来ない。 「秋にはさ、お前、自分のコンサートあるんだから。杏樹と遊んでる暇があったら、自分の事しろよ。ただでさえ、教室の仕事忙しいんだから・・・」  いつもなら、おとなしくその言葉に頷いていた。  それを受け入れるかどうかは別にして、その場では頷いて、その話は終わりにしていた。  それが一番いい方法で、それが一番“大人な対応”だと思っていた。  でも、最近は、憲一さん相手に“大人”を演じるのが、嫌になっていった。  憲一さんから“師匠の命令”の話を突きつけられるたびに、どんどんいやな気分になっていった。   師匠が彼を介して私に伝言をする度に、私の中の大切な何かが削り取られているようだった。 そして、削り取られた後は、何とも言えない虚しさが残るだけ・・・  その感覚に耐え切れなくなった。  ずっと、ずっと・・・・・・  我慢してきた。それが大人だと思っていた。  でも、その我慢も・・・限界! 「・・・いい加減にして・・・」     
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