第1章

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 彼が私に優しいのも、こうやって気遣ってくれるのも、  彼の意志なんかではない。  でも、その優しさも気遣いも、  最近はとても窮屈だ。  それは、この優しさも気遣いも、彼の意志などでもなく、まして、彼が私に好意を持っているから、とかそういうわけでもなく、 「師匠の命令」だから・・・  もう、そろそろやめてほしかった。  「師匠の命令」で優しくするのも、こうしてご飯を用意してくれるのも。 こうして、憲一さんと向かい合えるのは嬉しいのに。 昔のように、子供扱いして、ひどい言葉を投げつけられた頃と比べたら、今の方が余程、まともな付き合いにはずなのに。 「師匠の命令」「母さんがそうしろって」彼がそう言葉にする度に、その嬉しさは凍りつき、嫌な柵だけが残る。 私が、母親同然な師匠の命令を拒めるわけもなく。 心密かに思いを寄せている憲一さんの好意を、断れるはずもない。 でもその好意は、彼の意志でも何でもない。
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