第5章

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 今も、正直、子供は苦手だ。  でも、杏樹は嫌いじゃない・・・ 嫌いどころか・・・ 嫌いどころか・・・   「・・・わかった。夕方、うちにおいで。一緒にお祭りに行こう」 私は、心に出かけたフレーズを表に出すこともできずに、そう言うと 「本当? わーい!先生、ありがとう!!!」  杏樹は、嬉しそうな満面の笑みで、私にそう言った。その笑みは、子供らしい元気いっぱいな笑みだった。 「それでね・・・先生にお願いがあるのっ!」  杏樹は、珍しく真剣な表情で、私の顔を覗き込み・・・私にその“お願い”とやらを耳打ちした・・・・ 「え!」  その“お願い事”を聞いた途端、私はびっくりして大声をあげてしまった。 「駄目? 先生、持ってない?」 「いや、持ってるよ!持ってるけど・・・」 「だって、せっかくのお祭りなんだよ!」 「いつものじゃダメなの?」 「ダメ!」  しばらくこんな押し問答が続いた。  杏樹のお願い事とは。 “浴衣が着たい” “桜先生も、浴衣を着てきて” という事だった。  正直、浴衣なんぞ、殆ど着た事がない。  いや、持っているわけだから、着た事は何度かある。子供の頃だったら、お祭りで少しは着たことがある。     
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