異変※

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泣き続ける彼の背中を擦りながら私はプライドを傷つけないで病院に連れていく方法がないか考えた。この人は常に自分が上で私が下じゃないと気が済まない。メンタル面で疲れてるみたいだから病院に行こうなどと言ったら、それこそ逆上して私を殺しかねない。 それならば、私が病んで何も出来ないダメな妻になれば嬉々として病院の付き添いに来るのではないか?自分がいかに妻に優しく家事に協力的で献身的な夫であるかアピールするはず。それをひっくり返すには夫の束縛で普段録画録音されている日常生活のデータのコピーが必要だ。病院は証拠がなくてもイケるかもしれないけど、最終的に法律的な争いになることを考えてなんとかしてコピーを手に入れよう。私が病んでるフリをしよう。いや、もう既に私も病んでいるからフリじゃないかもしれない。 夜泣きが収まった子どものように彼は大人しく眠ってしまった。なぜ何かを抱えていたなら、それを素直に最初から明かしてくれなかったのか、いわれのない暴力という理不尽な歪曲した表現しか出来なかったのか、悔しくなってきた。最初から悩みを打ち明けてこんな暴力的なことがなければ、もっと真剣に支えていけたのに。 何事にも限度があって、幾ら弱いところを見せられても私はプライドを傷つけられたことで、したたかさを身に付けて有利な条件で別れることが最終目標になってしまった。 絶対見破られないような、完璧な演技をしよう。私は心に誓った。     
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