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「主人はその…亡くなっておりまして。親兄弟には私から連絡しますからお気になさらずに」
かなり無理な嘘だが、彼はあたふたしているところにさらに焦ってぺこぺこと平謝りしてきた。
「すみません、余計なことを。もうすぐ救急車来ますよ、ほら音が…。」
救急車独特のサイレンが近づいてきた。あわただしくも、キビキビと統制が取れた動きで救急車に乗せられる。救急車って運転手、救急にあたる人の三人一組なんだとどうでもいいところに感心していた。
手早く正確に聞取り調査をされていく中で私は声をひそめて言った。
「夫には連絡しないでください。」
二人一組で血圧や心電図、指先の酸素濃度を測っている人達は私の体の痣や傷を恐らく見ていたから飲み込みが早かった。
「他にすぐ連絡がつくお身内はいませんか?失礼ですが身元引き受け人がいないと搬送できる病院は国公立限定になります。」
ベテランのリーダーらしき40代半ばの救急救命士さんが言う。私は、
「身内も事情を知らないので勘弁してください。身元引き受け人なしで受け入れてくれる病院を探してください。お金と通帳、カードは持ってきましたから。」
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