1.日記

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 玲香様はこの日午後1時17分から公園にいた。隅の方のベンチに座って休憩していたのだ。公園近くの商店街で買い物をして昼食を食べたあとだった。大体二週間に一度、日曜日に買い物に来てはこの公園で休むのだ。いつもなら30分ほど休憩したのち家に帰る、のだが……  この日、玲香様は見つけてしまったのだ。人気のない草むらの向こうで泣いている男の子を!   男の子は見た感じ小学生高学年くらいの気弱そうな子だ。人の良い玲香様は優しく声をかけて事情を聞くことにしたのだった。  背中を擦りながらベンチに並んで座り、男の子が落ち着くのを待つ玲香様。男の子もつっかえつっかえ事情を話し始めた。いわく、宝物をなくしてしまった。転校してしまった友達と交換した、大事なキーホルダーを何処かに落としてしまった、ということだった。  そこで玲香様、すかさず、一緒に探しましょう、と言ったのだ! カッコいい!  そして有言実行、玲香様は男の子からなくした時の状況を聞いて、すぐさまキーホルダーの在り処を推測。その推測通り、キーホルダーは道端の自動販売機の足元に落ちていた。男の子はお礼を言ってスキップしながら帰っていった。  ここで私がキュンと来たのはもちろん推理力などではない。玲香様には公園で休んだあと帰宅して家事をする予定だったのだが、人助けを優先させたせいでこのあと苦労することになる。そんなことはもちろん分かっていた。とはいえ、目の前で困っている子がいたら自分がちょっと苦労してもいいから助けよう、と考える人は玲香様でなくともいるにはいるだろう。ここでの玲香様のすごいところは、まさに即断即決というところだ。迷わずに男の子を優先させたのだ。これはもう、ほんとにしびれるカッコよさだった。  休みの日、男の子以外誰も見ていない場所で、対価を求めずに人助け。こういうときこそ、玲香様が一段とカッコいい場面だ。玲香様は人に讃えられたいから人にやさしく、なんてことは一切しない。そういうところは、無限にある玲香様が好きな理由のかなり大きい部分だ。本当に優しい人なのだ。でも、本当に優しい人ほど割りを食うことが多いというのも事実だ。  だからこそ、私だけは玲香様のいいところ、気づいてあげないと。
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