日常

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 教室の後ろから五列目の、窓際の席。ここが私のこの授業での居場所だった。特に座る席が指定されているわけではないけれど、何回か授業を受けるうちに、自然と座る席は決まってくる。 「誰かー、この後カラオケ行かない?」  後ろの席に座る子たちの声が聞こえる。  授業が始まる前、教室はまだしゃべり声に溢れ、騒然としている。私はいつものように一人、下を向いて小説を読んでいた。  ……だけど、いくら集中しようとしても耳に入ってくる声を防ぐことは出来ない。 「この前バイトでさー……」 「エミとタケルが付き合ってるって、マジ?」 「昨日のドラマみた?高橋くんがちょーかっこよかった!」  文字をどれだけ追いかけても、内容は全く頭に入ってこない。 私は早々に読むことを諦めて、せめて小説に没頭していると周りから見られるように努めた。  教室に息を切らした学生が慌ただしく入ってきた。授業はまだ始まらない。たまにチラッと顔を上げてみる。私の斜め二列前の席に座っている細身の男の子が自然と目に入った。ナガシマ コウヘイくん。先生が出席を取るために毎回名簿を読み上げるおかげで名前だけは知っている。彼も一人で文庫本をじっと読んでいた。白いTシャツを着た彼に、窓から差し込む太陽の光が照らす黒髪が輝いている。 やっと始まった講義は、いつものように単調に過ぎていった。  この授業が終わると、一時間半の空き時間がある。図書館で課題をこなすのが私の習慣だった。たまに同じ授業を取っている子たちとご飯を食べるけれど、正直課題をやった方が時間の有効活用だと思う。授業の終了を告げるベルがなると一気に教室の空気が緩み、話し声が広がった。そんな教室を足早に抜け出し図書館に向かう。 授業が行われている建物の外に出ると、梅雨は開けているというのにムワッとした熱い空気が全身を包みこんだ。
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