日常

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 図書館棟に入り、地下二階まで降りる。冷房が効いているのか外とは違い空気がひんやりしている。ずらっと並んだ机の間を歩き、座る場所を探した。  ふと、見覚えのある背中を見つけた。白いTシャツの男の子。本を熱心に読んでいるようだった。出来るだけさりげない風を装いながら、私はナガシマくんから少し離れた向かい側の席に座った。髪の毛をたらして顔を隠し、カバンから教科書を取り出す。伸ばしっぱなしなだけだけれど、この時ばかりは髪の毛が長くてよかったと思った。目の前の課題に集中しようと頑張ったけれど、思わず髪の毛越しにチラリと盗み見てしまう。授業中はかけている黒縁のメガネは外されていて、伏せた目に黒く長いまつげが際立っている。彼の手元には分厚い本が積んであった。 結局、一時間半でやろうと思っていた課題は予定の半分も進まなかった。  それからも私は何度も図書館に通って課題をやったり小説を読んだりしていたが、あれ以降彼の姿を見ることはなかった。  ある日、私はレポートを書くための資料を探して書庫をうろついていた。何万冊もの本がぎっしり収められた本棚が立ち並んでいる書庫には、古い本の匂いが常に漂っている。独特な匂いだけど、私はこの匂いをかぐとなんだか安心してしまう。  資料検索をして書き留めたメモを片手に、本棚を見上げて背表紙を目で追っていく。この辺りにあるはずなんだけど……。  その時、カタッ。どこからか物音が聞こえた。顔を上げると、棚に並んだ本たちの隙間から向かい側に人影が見えた。心臓が飛び跳ねる。そこにいるのは間違いなく、黒縁のメガネをかけたナガシマくんだった。彼は私がいることに気付いていないようで、本の背表紙を見ながらゆっくりと歩いている。思わず、足音をひそめて、チラリと見える彼を本棚に沿って追ってしまう。  ふと、彼が立ち止まった。自動的に私も歩みを止める。彼は一冊の本を取ろうと手を伸ばした。……すると、隣から別の手が彼の伸ばした手の上に重なった。 「こんな所にいたんだ。探した」  突然の声に驚き目線をずらすと、彼の隣に本の影から女性が現れた。黒いロングヘアーのすらっとしたきれいな子だ。  
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