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6
三日後に彼は帰ってきた。私と彼だけの、愛の巣に。
窓の外を監視し続けて三日、ついに道路の奥からごみ捨て場に向かってくる彼を見つけたとき、私は喜びのあまり、ひっ、と声を漏らしてしまった。
階段に足を置く彼。私は急いで玄関へ。息を殺して覗き穴から様子を伺う。彼がドアノブに手をかけた瞬間、私はがちゃ、と扉を開けた。左手にとても大きな真っ黒いごみ袋を持ちながら。
「あ…… 帰っていらしたんですね」
微笑みは薄く。憔悴した彼を気遣う様に。自分に言い聞かせながらも、喜びは私の全身を包んで震えさせる。
「その節は…… じゃあ」
ぱたん、と閉まる扉。
それ重そうですね、持ちましょうか、という言葉を期待しなかったわけではない。そのために三部屋を同時にお掃除したのだから。手に持つごみ袋がいかにも重そうに見えるように。
だけど、私は幸せだった。彼が戻ってきてくれた。それ以上に何を望むことがあるだろうか。
私はごみ捨て場の黄色いカラス除けネットを外して、ごみ袋を放り投げた。
「こんにちは」
振り返ると、若くて綺麗な女がそこに居た。
「今日からこのアパートに越してきた者です、よろしくお願いします」
屈託の無い笑顔。私は口元にだけ笑みを作って挨拶を返した。
全ての部屋をお掃除したと思っていたのに。このアパートの住人は、いつまで私の邪魔をするのだろう。さっそく今すぐお掃除しなくちゃ。
私は階段を上ろうとする女を呼び止めて、訊いた。
「お部屋は何号室ですか」
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