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あぁ…やっぱ嫌じゃない。
触れたところが熱を持ち出しても、嫌悪感の欠片もない。早く離して欲しいとも思わない。やっぱりこんな感覚になるのはこいつにだけかぁ。俺も結構おかしくなっちゃったのかな。
ちらっとかしくんを見ると、先程の元気な表情が一転、ざあっという効果音が付きそうなほど血の気が引いていた。目は見開かれ、何かを言いたいのか口は半開きになっている。
前回のかしくんの話と藤倉自身の話からこいつが周りから怖がられていたことは分かるんだけど、そこまでか…?
しかしふと見ると、かしくんだけでなくこの光景を見ていた周囲の人々も何か物凄く恐ろしいものを見たように怯えた表情をしていた。何も見なかったとでもいうように足早に歩き出す人や、凍りついたようにその場から動かない人々。
何だ。俺の後ろにゴジ○でも出たのか。街の破壊が始まったのか?この状況についていけてないんだが、こいつの元ヤンっぷりはあんなサラリーマン風の人やあのご婦人方にまで広まっていたのか?そんな馬鹿な。
こっからじゃ藤倉の表情は窺い知れないけれど、まぁでも雰囲気的に絶対穏やかな感じじゃない気がする。何か怒ってんのかな。
「藤倉か?」
「うん。偶然だね?」
俺が声をかけると、少し顔を離して目を合わせてくれた。その表情は…ヘラヘラしてるな。何だ、いつも通りじゃないか。
と思ったけど、やっぱり違う。目が笑っていない。一生懸命笑顔を作ろうとはしているけれど、きっと心までは笑っていない。俺を抱き寄せる手に少しだけ力が込められた。
「ふ、ふじく、らセン…パイ…、あ、あの、そのっオレ…!」
おぉっと忘れてた。かしくんがめちゃくちゃ怯えた顔を隠しもせずに俺たちを凝視している。装備ゼロで熊に遭遇したみたいな感じになってる。
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