1 不運からの脱出

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1 不運からの脱出

 30歳を目前にした2年前の夏、婚約していた男に捨てられた。 そして、その秋には勤続8年の会社が倒産し、昨年の春、母が車の事故に遭い死んでしまった。  神にも縋りたい気持ちになった。どうして自分ばかりが不幸なのだ、何が悪いのだと、風水だの手相だの挙げ句お祓いだの、片っ端から頼った。  そんなある日のバイト帰り、突然降り出した雨を避け、ふと立ち寄った雑居ビル。簡素な間仕切りで区切られた、一畳ほどの小さな一画に、その占い師はいた。  その女性の強い眼差しと机に置かれた珍しい大きな水晶玉に、引き寄せられるように私は席に座った。 「いらっしゃいませ。何を占いましょう」  占い師の冷たい声が、心の奥の何かに触れた。歳はとっていたが、とても聡明で美しい人だ。 「恋愛運を……」 「恋愛運ですね。では、まず生年月日をお願いします」  その占い師は私の生年月日を聞くと、水晶玉を見つめながら無機質に語り出した。 「3ヶ月後、10月に……出会いがあります。中肉中背で、会社員の男性。話が上手で優しく、仕事も安定しています。彼はあなたを気に入り食事に誘います。すぐに、あなたも彼を好きになるでしょう。しかし残念ですが1ヶ月後には……」  占い師は間をおいて、ひとこと。 「詳しくお聞きになりますか?」  まるで未来が見えるような口ぶりが怖くなり、やめておきますと伝え、足早にその場をあとにした。
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