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私は震える手で、典子さんから1枚の紙切れを受け取った。
それは昨夜見た、形式に則った遺言書とは明らかに別物だった。そこには先生の字で、「占いに関する物は典子さんと二人で分けるように」と簡単に書かれているだけだった。
「久美ちゃんどうしたの? 何かあった?」
怪訝な顔で私を見つめる典子さんを横目に、私は机の上の水晶玉を覗き込んだ。
ああ、先生……。
その瞬間、全てがつながった。
私は典子さんに言った。
「何も捨てないでください。私、ここに住みます」
1ヶ月後、私は賃貸アパートを引き払い、先生の住んでいた古い一軒家に移り住んだ。
家は古かったが、土地や預貯金を合わせ、先生の遺産は1億円近くあった。私はそれを娘として、問題なく手に入れることができた。誰も私を疑う者はいない。そもそも家族も親友も、親しくしている親戚もいなかった。
私の個人的な過去の写真や書類は跡形もなく消え、必要最低限の公的な書類は全て、先生の名字である葉山に変わっていた。昔の知り合いは一様に私を忘れ、近所の住人は、私を先生の娘、葉山久美として受け入れた。
私は占い師になる決意を固めた。専門書を読み漁り、西洋占星術を独学で学んだ。
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