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そして1年後、店を出した。場所は、先生が借りていた、あの雑居ビルの一画だ。開店初日、当然客は来ない。
やはり宣伝しないと難しいのだろうかと思いめぐらせていたところに、典子さんがやって来た。久しぶりに会った彼女は、少しふっくらとしていた。
「お久しぶり、久美ちゃん。元気だった? これ、小さいけど、開業祝いのお花」
「ありがとうございます」
「素敵なお店ね。お母さんも天国で喜んでるわよ」
どっちの母かと一瞬どきりとした。しかし、それが先生のことを言っているのだと、私はすぐに理解する。あのあと、実の母の仏壇と墓は消えてしまったのだ。それ以外、私は恐ろしくて調べていない。もう、過去の私は消えたのだ。
「先生が亡くなってから一年以上経つなんて、早いものね。久美ちゃんがそうして水晶玉の前にいると、まるで先生が生き返ったみたい」
典子さんは、懐かしそうに目を細めた。
「せっかくだから、占ってもらおうかな」
「典子さん、ご自分で占えるじゃないですか」
「占星術はね。でも、そっちはまったく駄目」
典子さんは水晶玉を指差した。
「スクライングはセンスが必要よ。先生の血が受け継がれた、あなたには敵わない」
「わかりました。では僭越ながら、占わせていただきます」
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