7人が本棚に入れています
本棚に追加
一睡もできずに朝を迎えた。
行きたくない。しかし今日は予約が入っているのだ。リビングに避難していた私は、寝室の扉を開けた。そこはいつもと何も変わっていなかった。水晶玉も、昨日のことが嘘のように静かだった。
「考えたって、わからない」
そう意識的に声を出し、私は水晶玉を鞄に入れた。
不安を抱きながら、客を迎えた。
しかし占い始めると、不思議なほどに心が落ち着いた。水晶玉からも、いつも通りにメッセージは届いた。何事もなく予約客の占いを終え、気がつくと、今日は珍しく客が一人も並んでいない。
さすがに眠気から、頭がぼうっとした。私は店じまいを決め、帰る準備を始めた。
「美しい水晶玉ですね」
突然、背後から声をかけられた。振り返ると、恐ろしく美しい男が立っていた。流暢な日本語ではあったが、高身長で、ダークブロンドに輝く髪、青みがかった虹彩から察するに、西洋人の血が混ざっているのだろう。黒いスーツをお洒落に着こなすさまは、まるで西洋の貴族のようだ。
男に優しく微笑みかけられ、私は陶然としながら占いの説明を始めた。
「水晶を使った占いと、西洋占星術を組み合わせ、独自の占いをしております」
男はおもむろに席に座った。
「その水晶玉だけで占ってもらえますか?」
「……水晶占いですね。わかりました」
私は椅子に腰掛けて、男を見つめた。
「何をメインに占いましょう」
「そうですね。では、恋愛運を」
最初のコメントを投稿しよう!