1 不運からの脱出

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「ほっとしました。勤めていた会社が倒産してから、ずっとアルバイトの身で、生活が苦しくって」 「お一人で暮らしてるのですか?」 「はい。私の両親は、幼い頃に離婚していて、私は母と二人きりで、ずっと暮らしてきたんです。その母が昨年の3月、交通事故に遭い死んでしまって。それから私、どうにも立ち直れないんです」 「お母様がお亡くなりに……。それは、さぞお辛かったでしょう」 「はい……。それにここ数年、嫌なことばかり起こるんです。勤めていた会社は倒産し、婚約者は突然気が変わったと出て行きました。正社員の職は決まらず、バイト先でもいじめられ、それ以外にも辛いことが重なって。この不幸がいつまで続くのかと、不安で堪らないんです」 「では、それについて水晶玉で占ってみましょうか? お代はいりません。仕事運は占ったうちに入りませんから」 「本当ですか? じゃあ、お言葉に甘えて」  占い師は、水晶玉を静かに見つめた。 「あなたの不運は、4年前にお付き合いをしていた男性の嘘から始まっています」 「え?」  4年前? ということは元カレではない。もしかして、あいつ? そういえば確かにそうだ。あの頃から、悪いことが続いている。 「わかるんですか? その嘘の内容も」 「偽装のお付き合い、ですね」  占い師と目が合い、ぎくりと肩が震えた。この人は、やはり本物だ。 「詳細まではわかりません。この水晶玉が少しだけ教えてくれました。あなたが教えたくないことなら、水晶玉もこれ以上は語らないでしょう」  その嘘とは、その彼が実は同性愛者だったことだ。私との関係は、彼の両親を安心させるための偽装で、彼とはキスひとつしていない。繊細で優しい男だった。真実を知り、私は三日三晩泣いて落ち込んだ。
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