1 不運からの脱出

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 あまりの発言に息を呑んだ。深意を訊こうか迷っていると、先生が口を開いた。 「スクライングは天分に依るところが多いのです。まだ何も教えていないですが、あなたにはそれがあると私は見込んでいます。逆に西洋占星術は統計学のようなもの。焦らず、腰を据えて学びなさい。そうすれば近いうちに、占い師としての道は必ず開けます」  先生には、私以外にもう一人、すでに占い師を生業としている典子さんという弟子がいた。その典子さんに、このことを話すと、彼女は私の顔をまじまじと見て言った。 「先生があなたを分身だと仰ったの?」 「まぁ、そのような感じのことを」 「久美ちゃんって、なんだか特別扱いね。この前なんて、先生の水晶玉にも触らせてもらっていたでしょう?」  典子さんは冗談っぽく口を尖らせた。  彼女は私とは違い、先生の才能に圧倒され、懇願して弟子入りしていた。ここには1年近く通っているが、今まで一度も、先生の水晶玉に触らせてもらったことがないそうだ。 「先生って、何者なんでしょう?」 「さぁ。すごい才能の持ち主ってことはわかるけど、プライベートは一切明かさないから」 「秘密主義なんですね」 「でも、あなたにはお母様がフランス人だとか、海外を巡っていたとか話したんでしょう? 私なんて、前に個人的な質問をしたら、穏やかな顔で無視されたわよ」  と典子さんは呆れたように笑った。  それとは逆に、西洋占星術のノウハウに関しては、先生は私たち2人に惜しみなく教えてくれた。先生の自宅にある百冊近い専門書は全て読み放題で(とはいえ、そのほとんどが英語で読めないが)、占いに関する質問には、どんな小さなことでも答えてくれた。
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