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――先生! この顔、先生だ……。
この瞳、この口元、年齢は先生よりずっと若いが、亡くなった占星術の先生にそっくりだ。
一時間ほど頭を抱えていたが、一向に元の姿に戻る気配はない。先生の家に行けば、何か手掛かりがあるかもしれないと、私は家を出た。
先生の家のチャイムを押すと、奥から典子さんが顔を出した。
「ああ、久美ちゃん。来てくれたのね」
彼女は私の名前をすんなりと言った。
「あの、典子さん、私、その……」
言いかけて、言葉に詰まった。どうやら彼女から見た私は、変わっていないようだ。
「ひどい顔よ久美ちゃん。入って、お茶でも飲んで休んで」
典子さんも、憔悴した顔をしていた。彼女は昨夜は帰らずに、ずっと遺品整理をしていたようで、占いに関する本や道具が分類され、部屋のあちこちに積まれていた。疲れきった典子さんに、自分の姿が別人に見えるという、奇想天外な話をするのは気が引ける。
「典子さん、片付けありがとうございます。私も手伝いますね」
典子さんは頷きながら、溜め息をついた。
「私、来年で60だし、占い業はもうやめようかと思ってるの。だから読みたい数冊の本だけ頂こうかしら」
そういえば遺産の件は、結局結論が出ないままだ。
「久美ちゃん、欲しい物があったら言ってね。他は面倒だから捨てちゃいましょう」
「そうですね……」
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