0人が本棚に入れています
本棚に追加
私が彼を初めてショーウィンドー越しに見たのは3か月前。
大柄な体だが、穏やかなで優しそうな雰囲気を醸し出していた彼は真剣な面持ちで私とにらめっこしている。30分ぐらいたってもそのままなので、不思議に思って店員が声をかける。そこで相談すればいいのに、驚いてお店から逃げるように出ていく。
何がしたかったのだろうかと声をかけた店員と私は同じことを思っていた。
それから、彼はお店で私を眺めるのが日課になったかのように、週に2~3回来るようになった。いつも通り私をじっと真剣に見つめている。
彼をいつものように観察しながら、3か月も彼を見ていて一言言いたいことを心の中で叫んだ。
(あなた、いつになったら私を買うのよ!)
私のいる場所はジュエリーショップのショーウィンドーの中だ。
とくに私は隣の座る指輪と一緒に買われる結婚指輪である。
(観賞用の美術品でないの!幸せな二人の薬指にはまるためのものなの!…毎回毎回、私を見つめられると、気になって仕方ないわ、もう!)
いつまで続くのだろうとイライラしながら見ていると、彼は私を指差して言った。
「こ、これをお願いします」
それ言った時、何か決意をしたような強い瞳をしていた。
(やっと彼女に送る決意をしたのかしら。…それにしても長かったわ。買うのにどれだけの日にち費やしているのよ。このヘタレ!…この人の彼女の顔を早く見てみたいわ)
心の中で悪態をつきながら、どこかワクワクした気持ちになる。
彼は、給料3ヶ月分のお金で私を買った。
私は店員によって丁寧に小さい箱に入れられる。店員さんもやっとここ3ヵ月見守っていたのか、安堵したかのような笑顔で私をラッピングしている。
出番が来るまでは、彼の奥さんとなる人の顔を想像して私は箱の中で座って待つのだった。
最初のコメントを投稿しよう!