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第2章 気になって仕方がない不幸な後輩
「遅すぎる!どんだけヘタレなんだよ、おまえ」
俺は彼に思いのたけを言い放った。
「なんかタイミングが…」
「タイミングは言い訳にならない。なんで、2か月も婚約指輪を持ち歩いているんだよ」
大柄の体を縮こまらせている後輩を見つめ、ため息を漏らす。
この男は、諸橋拓馬といって会社の後輩だ。真面目でいいヤツなのだが、引っ込み思案なところがある。あまり話したことはなかった諸橋から急に飲みに誘われた。最近落ち込んでいたみたいだから彼のことは気になっていたが、相談された内容に思わず説教した。彼は付き合って3年になる彼女がいるのだが、プロポーズすると決めた。
そのあと、指輪を買うのに3か月かかり、買ってから2か月たっているのにまだプロポーズができていないのだ。
諸橋の彼女が多忙であまり時間が合わないというのもあるが、それ以上に諸橋にも原因がある。
「なんで、高級レストランを予約してプロポーズをしないんだ。彼女の家に泊まった時だって、デートに行ったときだって、プロポーズはできるだろう。なんでこんなにたくさんのタイミングがあるのにできないんだ?」
「いや、高級レストラン行ったことなかったから、作法とかに必死すぎて気がついたら会計だったし。遊園地に行って観覧車でプロポーズしようとしたら、急に観覧車が休風で止まってそれどころじゃなかったし。彼女の家に泊まったときは指輪自体を忘れていたことに気づいて…」
諸橋は要領が悪いというか、不器用な男なのだ。恐ろしいほど運のない男でもある。
バナナの皮があったら転び、行列ができるお店に並ぶと必ず彼の前で商品が売り切れになる。彼女はそんな諸橋を好きみたいだが、不器用で運のない男のどこがいいのか。
このままプロポーズされない彼女もかわいそうすぎる。
「そんなことやっていると、おまえ、いつか愛想つかされるぞ。…彼女のこと好きなんだろ?」
彼はうつむきながら、コクリとうなずく。
「彼女と次に会うのはいつだ?」
「金曜日の夜です。彼女の家に行きます」
「じゃあ、そのときにプロポーズだ。もう雰囲気とかそういうのはいいから。必ずしろよ」
ビールを片手に一緒に作戦を練り始める。
諸橋は俺の言ったことをメモ帳に書いていく。
(真面目過ぎるこの後輩は悩んでいると、気になりすぎて無視できないんだよな)
その諸橋の姿を見て苦笑しながら、彼のプロポーズの成功を祈った。
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