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第3章 最近家に来る、気に食わない人
「拓馬、ちょっと待っててね。すぐできるから」
「う、うん。ありがとう」
フライパンでハンバーグを焼きながら、亜美は奥にいる男に声をかけている。
僕はそれを見ながら、自分に用意されたペットフードをもぐもぐ食べる。亜美が手作りで作ってくれるペットフードは格別だ。
「ワンワン」
「シロ?あっ、ペットフードがおいしかった?…試作品だけど気に入ってくれたんだ」
亜美は振り返り、僕ににっこり笑いかける。うれしくて、尻尾の振る速さが早くなる。
綺麗に皿を舐めとって夕食を平らげる。伸びをしてから、ずっと気になっていた男の方を見る。リビングでテレビを見るふりをしながら、テレビに意識がいっていない。やけにソワソワしている、亜美が拓馬と呼ぶ男。
ここ2年ほど、時々家に来て、亜美と寝室で寝て帰っていく。そのとき、僕はいつもリビングで寝かせられて、亜美と眠れないから拓馬が来る日は嫌いだった。
ソファに座っている宿敵の男が今日は何かおかしい。
(偵察が必要だな)
トコトコ歩いて、こっそりソファの影に隠れ、拓馬の様子を盗み見る。
「大丈夫。ごはんを食べる前に言う。ダメだったら、ご飯を食べた後。落ち着け…」
よくわからないが、ぶつぶつ何かを呟いている。拓馬の手元には、紺色の小さな箱が大事そうに握られていた。
(もしかして、あれは拓馬の大事なものか?…ふふふ、大事なものはちゃんと隠しておかないとダメだろう。僕はちゃんと行きつけの公園の木の根元に隠してあるぞ)
いいことを思いついて心の中でにやりと笑った。
「ワン!」
驚いて、拓馬は紺色の箱をソファに落とした。
「うわぁ!…なんだ、シロか」
僕を見て安心したように笑い、頭を撫でようとしたが、その手をかわし、ソファに落ちた箱をくわえた。
「あっ!シロ。ダメだ、それを返しなさい」
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