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「ね。星、好きなの?」
放課後。
期末試験が終わり、まもなく一学期も終業式を迎えようとしている、夏に向かうばかりの図書室で、わたしは彼女と初めて出逢った。
出逢った、というのは正しくないかもしれない。
彼女はうちの学年でも一番と評判の美人で、すこぶる歌が上手いらしいと一年生の頃から有名だ。
「御園さん、だよね?」
どうやら、相手もわたしのことを認識していたらしい。
内心、疑問は尽きないが、問いかけを無視するほどの理由も特にないので、読みかけの天文誌を置くと、わたしを覗き込む彼女に目を向けた。
「どういったご用件でしょう、小早川さん」
そう、名前も知ってる。
小早川 花恋。
全体的に色素の薄い、日本人離れした顔立ちは絶妙なバランスに整っていて、ふわふわと揺れる長いブリュネットも愛らしく、白磁の肌にほんのりと浮かぶそばかすが愛嬌を感じさせる。
名前も見た目も、まるでお姫様みたい。
濡羽の黒髪がトレードマーク、ひそかに囁かれるあだ名が『市松人形』とか『こけし』だとかのわたしとはえらい違いだ。
つまるところ、このときまでのわたしにとっての彼女は、顔と名前を校内における一般常識程度には認識している同級生でしかなかった。
これまで一つの接点もなく、もちろん会話などしたこともないのだから、初めて言葉を交わしたこのときのことを『出逢った』と称しても、あながち間違いではないだろう。
「私のこと、知ってるの?」
――おそらく、校内であなたのことを知らない生徒はいないと思う。
彼女自身の認識の程度は量り知れないので、わたしは曖昧に頷いた。
相手はそれで満足したようで、綺麗な顔に笑顔を刷いて言う。
「私ね、お願いがあるんだ」
目の前で、やたらと細く白く華奢な指が、揺れる栗毛をさらりとその耳に掻きあげる。
「流れ星をね、見てみたくて」
なるほど。
そういうことなら、わたしに声を掛けるのがおそらく正解だろう。
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