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 我が校唯一の天文同好会員、それがわたしだ。  先輩が抜けたから一人になったわけじゃない。  わたしが一人で立ち上げて、特段の勧誘も広報もしないものだから、始めたときから高3の今までずっと一人会員だ。  うちの高校には科学部なるものもあるけれど、わたしは星に関することだけできれば充分なので、合流しないかとの再三のお誘いは、丁重にお断りした。  有り体に言えば、面倒なのだ。  人と群れるのが。 「十和田(トワダ)先生に相談したら、御園さんに協力してもらいなさいって言われたんだ」  件の科学部顧問というのが、十和田先生だ。  隣のクラスの担任でもある彼は残念ながら化学教諭だし、この高校では化学と生物と物理しか選択できないので、そもそも地学の先生がいない。 「流れ星って、私、一度も見たことがなくて」 「普段天体観測をしない一般人がふと空を見上げたとき流星を目にするには、なかなかの幸運値が必要かもね」 「そうなの。だから、ペルセウス座流星群、っていうのを見てみたいんだ」  単に冷やかしなら適当にあしらおうかとも思ったけど、小早川さんは素人なりに一応、調べてはみたらしい。  できる努力を怠らない人間は結構好きだ。 「三大流星群と呼ばれるもののうち、夏に見られるのがペルセウス座流星群。流れ星を確実に見たいなら、確かにこれを観測するのが一番手っ取り早いと思うよ」 「御園さんはそれを見る予定?」 「もちろん」  見頃はちょうど夏休み、もはや小学生の頃からの恒例だ。 「それなら」 「駄目」 「…私、まだ何も言ってないよ」 「絶対嫌」 「御園さん」 「どうせ一緒に見ようとか言うんでしょ? わたしは家で誰にも気兼ねなく一人のんびり流星群を待つの。今日初めて話した人を家に招く趣味はないから無理」  推測どおりのことをやはりお願いしようとしていたのだろう、小早川さんはわたしの言葉にすっかりしょげて――は、なぜか全くいない様子で、あははと楽しそうに笑う。  良かった、司書さんが席を外していて。  ついでにテスト明けの今日は、図書室の利用者もまばらだ。  とんだとばっちりだけど、誰にも睨まれずに済んだ。
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