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「さっすが、鉄壁の万年主席は頭いいね」
「…嫌味?」
「えっ違う違う! 褒めてるよ!? 私の考えてることもわかっちゃうなんて、すごいなって」
本来、部活動必須のこの学校で、一人同好会なんて認められない。
別に勉強が趣味なわけもないけれど、群れたくない、その我を通すために、入学以来一度も学年一位を下りたことはない。
陰口はもはや慣れっこだし、事実なのでさほど気にもしていないが、からかう調子で聞き返したら思いのほか相手のほうが慌てた。
思っていたよりも、だいぶ素直な子みたいだ。
それから小早川さんは、コホンとわざとらしく咳払いをして、そっと諳んじる。
「流星群観察のコツは、空が大きくひらけていること、人工の明かりが周囲に少ないこと」
「そうだけど」
「私ね、思うの。その条件に一番適した場所って、すぐ近くにあるんじゃないかなって」
「近く?」
「そう。学校の、屋上」
確かに、うちの高校はかつてお城が築かれていた高台にあって、学校以外に人家はまばら、少し離れた駅向こうまで行かなければ住宅街もない。
敷地を囲む眼下の木々の陰へと、それらの明かりは大方隠されてしまうだろう。
屋上は中でもひときわ空に近く、全天を障害物なく広く大きく見渡せる、絶好の観測ポイントに他ならなかった。
問題は、
「屋上の鍵は、どうするの」
それが、最大のネックだ。
実は以前、同様のことを思いついて、同好会の活動として星の観測を行うからと鍵の貸出を願い出たことがある。
けれど、屋上は危険だ、顧問がいない、夜通しの活動は認められない、といろいろ理由をつけて却下されたのだった。
高校生で、そうやすやすと遠出もできないし、屋上を使えるのなら、ぜひともそうしたいところだ。
このあたりで一番の絶好ポイントは、間違いなく学校なのだから。
出方を窺うわたしの眼前で、小早川さんがくるくると指先で円を描く。
ふふ、と笑って、まるで、魔法使いみたいに。
「合鍵が、実はあったりするんだよね。ここに」
その指には、遠心力でくるりくるりと銀色に光る小さな鍵が、あった。
もちろんわたしに、異論はない。
小早川さんとの利害は一致している。
彼女が屋上という素晴らしい観測地を用意する、わたしが彼女に観測方法を指南して、一緒に流星群を観測する――実に理に適ったギブアンドテイクだ。
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