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「君は幸せだった?」
ボクと同じ顔をした人物が話しかけてきた。
「どうだろうね。君が幸せならそうじゃないかな」
「適当な回答ありがとう」
ニコリとわざとらしい笑顔をする彼を見ると、ボクは笑ってしまった。彼はボクと違い表情を上手につくることができないらしい。
十七年も一緒に生きているのに、彼は全然変わらない。それが彼らしいのか、単なる不器用なのか。
「ところで、そっちから話しかけるなんて珍しいじゃん」
「ただの時間つぶしだよ」
十一月中旬、立ち入り禁止である屋上にいる彼の手や頬は薄ピンクに染まっている。
「誰を待っているの?」
「君ならわかるでしょ」
ボクと彼の会話は弾まず、すぐに途切れてしまった。
だけど、ボクらは話をしなくても互いに理解していた。彼は誰を待っているのか、聞かなくてもボクにはすべてわかってしまう。便利なのか不便なのか。
「ま、ボクのことは気にすんな。自由にしな」
そのときだった。
後ろからドアが開く音がした。そこにはあの子がいた。
「ごめん、待った?」
「いや、僕もさっき来たんだ」
嘘つけ、と言いそうになったがぐっとこらえる。
優しく微笑む彼女と不器用に笑う彼。
第三者から見れば彼と彼女はお似合いのカップルに見えてしまうだろう。彼のすべてを知っているボクには何も感じないが。
「空が赤いね」
「うん、綺麗だったね」
彼らは互いに手を握った。
そして、空を飛んだ。
ボクは彼の意識が途切れる瞬間、それがボクの最期だ。
「じゃあね、ボク。君と過ごせてよかったよ」
彼からそんな声が聞こえたような気がした。
すべて、ボクの思い込みだけどね。
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