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その後も彼は、相変わらず踏切の前にいた。
陽依はスマートフォンをチェックするのに忙しく、彼に気が付いたり気が付かなかったりだったが、荻原と一緒の時は、荻原が面白がるので、必ず彼に向かって手を振った。
だが、そのうち、いつの間にか踏切の前から彼の姿が消えていた。陽依は、通学の時間を変えたのかしらとしか思わなかった。友人も彼氏もできて忙しくなった陽依には、話したこともない踏切の彼の事を考える暇などなかった。
数か月後、陽依はまた、学校に行くのが苦痛になっていた。
陽依は、荻原と付き合いはじめて間もなく…本当に間もなく、振られた。振られた理由は、「思っていたのと違った」という納得しようのないものだった。
幸いだったのは、陽依が本気では彼を好いてはいなかったことだった。陽依は初めての彼氏という存在に浮かれ切ってはいたが、荻原への気持ちはそれだけのものだったので、振られた後も、半月ほど不貞腐れただけで失恋の痛手からはほぼ復活できた。
問題はその後、荻原が半井と付き合い始めたことだった。陽依の方は全くとは言えずとも、それほど気にはならないことだったが、半井の方が大袈裟に陽依に遠慮するようになった。
とはいえ、女子高生の話題の中心など、ほぼ恋愛だ。半井の遠慮により、次第に陽依はグループのお喋りの輪から外されていった。
そうなると、一学期と同様、三学期でもクラスで陽依の居場所はなくなった。
そして陽依は、また、二月の寒空に似合いの陰鬱な気持ちを抱えながら、通学の電車に揺られるようになった。
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