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夏休みが終わって、また学校が始まってからも、二人の挨拶代わりのじゃんけん勝負は続いた。
だが、ある日、雨でもないのにその勝負が途絶えたことがあった。彼女が車中で同じ制服を着た女子と話していて、榛人に気付かずに過ぎ去って行ってしまったのだ。
榛人は、彼女の楽しそうな顔が自分以外に向けられているのを、初めて見た。
思えば、榛人が彼女に手を振ったのは、彼女の元気の無さそうなのを見たからだった。友人もおらず、一人だったからだった。
あんな楽しそうに、友達とも一緒で、良かったじゃないか。榛人はそう自分を納得させようとしたが、自分を無視した彼女に対して恨めしい気持ちがないとはいえなかった。
次の日、やはり彼女は、前日一緒にいた女生徒一緒だったが、今度はその娘と一緒になって榛人に手を振ってきた。榛人はよその学校の女子高生二人に手を振られて、ちょっとしたモテ気分を味わい、先日の恨みも忘れた。
その後、彼女はその娘や別の娘、二人や三人で電車に乗っていることが多くなった。そんな時はその全員で榛人に向かって手を振ってくれるのだが、榛人は本音では、友達連れでない、彼女が一人の時の二人だけでじゃんけんをする方を楽しみにしていた。
ある朝、彼女は揃いの制服を着た男子生徒と一緒だった。そして、榛人の方を見なかった。
榛人は、自分だって学校の女子と普通に喋るしと、踏切を渡った。そのまま学校に向かう途中、クラクションを盛大に鳴らされた。目の前の信号が赤だった。信号も見えていなかった。
次の日、彼女は一人だったが、熱心にスマートフォンをいじり、榛人の姿を気に留めぬまま、通り過ぎて行った。その次の日も同様で、その翌日、ようやく榛人の存在を思い出したのか、手を振った。
彼女は隣にいた、前に一緒にいたのと同じ男子生徒の肩を叩き、榛人を指差してから、その男子と一緒になって、二人で榛人に向かって手を振ったのだった。榛人はそれに対しての反応が一拍遅れたが、それでも笑顔を作って手を振り返してやった。
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