涼木 実遥(すずき みはる)

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ガタガタとざわめく教室。 伸びをして、欠伸をする彼の元に友人が何人かやってきて、何かしら話している。話している言葉自体は聞こえないけど、友達が彼にツッコむような動作をしていたから、たぶん、さっきの時間に、彼が数学の宿題をやっていたことが話題だろう。 彼はそのまま友人たちと連れ立って、どこかに行ってしまった。 私は、机に出したままの歴史のテキストをさらっと読む。耳ではずっと先生の話を聞いていたけど、今日は特に、テキストを超えた話は出てこなかった。板書も特になし。 歴史のテキストをしまって、次の時間の数学の用意を出す。彼は数学が得意だからか、その授業は絵に描いたようにいつも真面目に受けている。だから、見ててもそんなに楽しくない。何より、私は、数学はきちんと聞かないと内容がわからなくなる可能性が高い。少し残念だけど、次の授業は、観察はお預けだ。 少し前までは、窓の外に見える鳥たちを見ているのが楽しかった。だけど、最近私がハマっているのは、彼を観察すること。 廊下側の前から二列目の席に座る、今畑招太という名前の同級生。理数系が得意で、文系が苦手。特に、古文と漢文はひどいようで、授業中、ずっと固まっていたり、諦めて寝ていたりすることもしばしば。でも、歴史とか地理とかはまだ見込みがあるようで、頑張って聞いてはいる。だけど、さっきみたいに、うつらうつらすることも多い。 見ていて、飽きないのだ。鳥たちみたいな可憐さはないけれど、どうしようもなく微笑ましい可愛さがある。 なんて考えていると、友人がそばにやってきたので、彼女に合わせて話に花を咲かせた。 教室の、今の私の席は、とても恵まれているのだ。だって、彼のことを、とてもよく観察できるから。
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