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今畑招太(いまはた しょうた)
気になる。
いや、だって、そうだろ。クラスの女子が、俺のことをずっと見てくるんだから。
気付いたのは、偶然だった。
プリントを、後ろに回す時だ。身体を左にひねって後ろを向いた時、ふと視線が、あいつと絡んだ。あいつは俺を見て楽しそうにしていた。目が合って、俺はすぐに逸らした。なんか、胸がドキドキした。
それから、あいつと目が合うことが増えた。今日も見てるかな、なんて意識してるのか、いつも確認してしまうのだ。あいつはいつも、俺を見て楽しそうにしている。
あいつの名前は、涼木実遥。特別美人っていうわけではないけど、目が大きくて、そこそこ可愛い。成績は俺よりずっと良い。授業中も、俺のことずっと見てるくせに。だけど、数学は少し苦手なのか、この時間は俺のこと、あんまり見ない、気がする。
でも、今日の数学の前の歴史の時間は、俺のこと、ずっと見てた。わかってたけど、でも、数学の宿題はもうこの時間しかできないし、睡魔にも勝てない。...だらしない奴って、思ったかな、なんて、考えたこともあったけど、あいつはやっぱり楽しそうだったから、いいかな、って思ってる。
「なぁ、今畑。」
呼ばれて、すっと我に返った。
いけない。ぼんやりしていた。今は昼休みで、俺はいつもつるんでるダチと一緒に屋上に続く階段のひとつで昼飯を食べている。
屋上で飯を食べる奴らは何組かいるけど、階段はあまりいない。それに、今俺たちがいるのは一番教室から遠くて、不便な階段。利用するのは俺たちだけで、他には誰もいない。
そう、俺たちの話を聞く他人は、誰も、いないのだ。
「どうした?今畑。ぼーっとして。」
ダチの一人が、そう訊いてくる。だけど、心配している感じじゃない。ニヤニヤした顔。
「なに?涼木のことでも考えてんの?」
そりゃあ、あんだけ熱い視線で見つめられたらなーと言って、ダチたちはニヤニヤと笑う。
あいつのことは、周知の事実。あれだけ熱心に見つめられたら、周りが気付くのも無理ない。あいつはたぶん、知らないけど。
もう付き合っちゃえよー、なんて声を、適当に、だけど感じ悪くはならないように気は使いながらかわす。
ここは、俺たち以外、誰もいない。遠慮なく揶揄られる勝手なプライベートは、気分良くはならないけど、怒るほどではない。
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