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その後、別のことに話題が移ってしばらくすると、昼休み終了の十分前になっていた。そろそろ教室に向かわないと、授業に遅れてしまう。
立ち上がり、先に歩を進めたダチ達に続こうと、歩き始めようとした、その時。
シャツの肘のあたりを、掴まれた。振り向くと、すっとした真顔で俺を見てる、つるんでるダチの一人。
「何だよ、中多?」
名前は、中多明孝。俺がつるんでるダチの中では、一番成績が良い、いわゆる優等生タイプ。
「たぶんさ、勘違いだと思うんだよね。」
真面目に、中多は話し始める。
俺はそんなこいつを、黙って見る。...何の話を、してるんだ?
「涼木さんがさ、君のことを見てるのは、恋愛感情じゃないと思う。」
「...え」
「君は、自分が動けば、いつでも涼木さんと付き合えると思ってるだろうけど。」
どきっとした。
あいつは、いつも俺のことを楽しそうに見てるから。あいつが俺のことをそういう意味で好きだというのは、疑いようがないと、思っていた。
「僕は、涼木さんの後ろの席だから、普通に授業を受けていたら、彼女のこと、よく見えるんだ。」
ここで、こいつはやっと少し、口角を上げた。不器用な笑顔だ。肌の白い、中性的な顔をしてるから、もっと上手く笑えれば、女子にモテるだろうな、と時々思う。
「彼女は、少し前までは、とても熱心に窓の外の鳥を見ていた。だけど、君に興味を持ってからは、君のことを熱心に見ている。」
そう言って彼は、また、さっきまでの真剣な顔で俺を見てくる。わかっただろ、みたいな感じで。
「...え、何だよ、どういうこと?」
そのまま何も喋らないので、痺れを切らした俺は、こいつに訊いた。
こいつは、はぁ、と大袈裟なため息をついて、呆れたように俺を見てくる。何なんだ?
「だからさ、君は涼木さんにとって、鳥と同じなんだよ。見てて楽しいから、見ている。それってさ、付き合いたいとか、そういうことではないよね?」
さぁ、もう行かないと、さすがに遅刻だよ。
こいつはそう言って、俺をおいて、すたすたと歩いていく。
俺は、前を行く中多の背中をしばらく見ていた。頭が、すっと、冷えている感じ。冷水を突然浴びせられた感じ、というか。
中多の背中が見えなくなったあたりで、俺は、我に返って、早足で教室を目指した。
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