7人が本棚に入れています
本棚に追加
中多明孝(なかた はるたか)
蒔かぬ種は生えぬ、という。その通りだろうけど。でも、種を蒔いて、芽が出たからといって、順調に育つとは限らない。
涼木さんは、とても興味深い人だ。成績は僕よりも良いのに、授業を至極真面目に受けているか、といえば、そうでもない。だけど、休み時間にさらっとテキストに目を通したりしてるから、要領良く勉強するのは得意なのかもしれない。
彼女は、いつも自分の興味のあるものを、とても熱心に見ている。この間までは、窓の外の鳥。だけど、今は、僕の友達の今畑くんのことを、見ている。
僕は、彼女の一つ後ろの席だから、彼女のことは、見ようと思わなくても、とてもよく見える。だけど、僕は思うんだ。人は、興味のないものを、わざわざ熱心に見たりはしない。僕は、涼木さんに興味を持っているから、見ているのだ。
その興味の正体は、一体なんなんだろう。僕はまだ十七年しか生きていないから、よくわからない。だけど、とりあえず、彼女が今畑くんのことを見て楽しそうにしてるのは、面白くなかった。
だから、芽を摘むことにした。
彼女が彼を見ているのは、恋愛感情ではない。鳥を愛でるのと、同じ感覚だ。
これは、嘘ではない。実際、彼女が彼を見つめる表情は、鳥を見ていた時と、同じだ。彼女は、彼に、恋愛感情を抱いていない。
だけど、種を蒔くには、十分だった。
今畑くんは、彼女の視線を自覚した。単純なモテたい盛りの男子高校生が、これを無視するわけがない。もしも、彼が彼女に何かしらのアプローチをしたら、そして、もしも、彼女が自分の行動の意味に、好意が含まれると考えてしまったら。少し出た芽はあっという間に育って、咲き誇る可能性がある。
僕は、それが嫌だから。
だから、今畑くんに、『本当のこと』を話した。彼は、おそらく彼女のことを相当気にしているけど、好意ではないとわかったら、何かしたら行動を起こすことはないと思う。
蒔いて、芽吹いたって、摘んでしまったら、それまで。僕は、『彼と彼女の』物語を始めさせる気なんて、さらさらないのだ。
最初のコメントを投稿しよう!