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その女は、美苗の前をずんずんと歩いていく。決して後ろを振り向いてくれない。だが、美苗の行く先を知っているかのように、前を歩き続けているのだ。美苗は、右に曲がる場所に来た。ここでその女ともお別れだな、そう思ったのも束の間だった。
黄色の女も右に曲がった。なんてことはない。ここは繁華街。同じように道を曲がっても同じ場所に行くとは限らない。美苗が一方的に女のことを気にかけているだけ。街中では、同じ方向に歩いているようでも目的、目的地は違うのだから。美苗は独り言ちながらも、何故この黄色の女が目につくのだろうと自分自身の心を訝った。
右に曲がり、美苗の目的地に着こうとしたその瞬間、一歩前を歩いていた黄色の女が振り向いた。
「わたしは、未来のあんたよ」振り向いた女の顔は皴でたるみ、シミだらけだった。加齢の皴やシミだけではなく、表情が暗く、陰鬱な感じだった。それが、より一層、身に着けている服装と対比して物悲しく見えた。
「は?」
「わたしは、未来のあんた。このまま生きていたら、こんなふうに痛い感じの女になるよ」
そう言ったかと思うと女は高らかに笑い、シャボンのように美苗の前から消え去った。
黄色のTシャツに白いフレアースカート。そんなファッションは、ないだろうというくらい、美苗にとってはありえない。だが、このまま年をとって、意識と実年齢が乖離したら…。あり得るかもしれない痛いたさ。
美苗の前を歩いていた黄色いTシャツの女は幻ではない。美苗の恐れる意識だったのかもしれない。
美苗は、女の寿命よりもっと大切なものを気づかせられた。彼女は、若さとは儚い。だが、成熟は人生そのものなのだと。美苗のなかの魂がそう訴えるのだった。
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