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朝
「翼、ご飯よ。」
少しやつれ気味の顔色の悪い女が、物置小屋に入ると弱々しい声で話した。
翼の母だ。
その目には光がなく、どこにも視点をおいてない。
母親は、おぼんに置かれた小さなクリームパン、牛乳をホコリだらけの床に置くと小さな悲鳴をあげて尻餅をついた。
「っ…つばさ!!!」
驚いて倒れたが、すぐに驚いた原因のものに駆け寄る。
母親が揺するのは床で寝ている息子の翼だった。
前のような翼ではない。
手足は骨のように細くなり、顔色は白くなり、動かぬ無機物となっていた。
母親は、起きて欲しいといわんばかりに翼の体を揺する。
翼が起きるはずはない。
そこにいるのは…屍なのだから。
「いやぁぁぁぁぁ!つばさー!」
母親は顔を涙でぐちゃぐちゃにし、泣き叫んだ。
その声は物置小屋に響いた。
泣き叫ぶ母親に対して、動くことのなくなった翼の顔は気のせいか微笑んでいるようだった。
「泣くくらいなら最初から大事にしなよ…」
その様子を木の上から見ていた少女は飽きれてため息をつくと大きな翼を羽ばたかせ、バサッという音をたてて空に飛び立った。
死んだ翼の手には大きな、純白に輝く羽が握られていた。
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