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傾きかけた西日で赤く染まった教室の窓。
適度に薄汚れたモップを両手で持ち、少女がくるんとこちらを振り返る。
後頭部の中腹で左右に結んだ髪、遠心力がそれをふるふると揺らした。
机が片付けられた教室の床に、長く細く伸びた影もまた幾分もっさりと同調する。
「詭弁だな、なんの根拠もない」
僕?はそんな少女を横目でちらっとだけ見遣り、それを気取られないようにモップを動かす。
「キベン? 京(けい)ちゃん、どういう意味?」
「別に寝ててもぼーっとしてても、明日なんて来るだろ。何故わざわざそれに対してアクション起こす必要がある?」
「だーかーら、それが発想の転換なんだってば。放っておいても来るからって、それに任せない。こっちから乗り込んでく、前のめりな心意気がカッコいいって話」
「前のめりねえ。で、立河(たちかわ)は、それ、できてるわけ」
あからさまに口の端をゆがめて、ぎゅっと目を瞑る。
どんな仕草も立河がやれば、何度でも見たい絵になる。
「眠くて、なかなかできない、けど」
「寝てたらだめなのか」
「午前0時を迎え撃たないと始まらないし。でも、あたしはいっつも寝てしまう」
「俺にはやれって?」
「だって」
また少し口をすぼめて、目の中で瞳がせわしなく駆け巡る。
「京ちゃんには、そういう人でいてほしいっていうか」
「は?」
「京ちゃんならきっと創れるって、あたしは思う」
夕日が、教室の中まですっぽりオレンジに染めた。
そっぽを向いた立河の顔も道連れに。
その情景はこの上なく鮮やかで美しいのに、何故だか僕の脳内で色味が補完されているような不可思議な感覚がある。
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