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「京ちゃん、どうしたの? なんでそんなに辛い顔するの」
教室の机で向かいに座る立河が両手で頬杖をついている。
琥珀色の瞳が瞬きもせずに、僕を見ていた。
どうにも、打ち返す言葉など思い浮かばない。
「もう、こっちに帰ってきたらいいのに」
「え」
「京ちゃんがいるべき場所は、ほんとはここなんだよ?」
その意味の全てを咀嚼できたわけではない。
でも、僕はそのとき、ひとつの真理を手にした。
そういう、ことだ。
僕は、母さんの描いたこの「世界」で生まれた、と。
「立河、ごめんな。僕には明日なんて創れてなかった」
「しょうがないよ、あたしはそんなこと気にしないよ」
「気にしろ」
大きな目を殊更まん丸にして、立河はがたっと椅子から立ち上がった。
噛み締められた唇が、一転して大きく開かれる。
「甘えんな! 馬鹿」
もっと大きな音を出して、椅子が後ろに倒れる。
僕も睨みつけるように、立河を見た。
「ぬるま湯で生きるくらいなら、こっちで与えられた毎日を過ごせばいい。あたしみたいにね!」
僕の目の数センチ先にびしっと人差し指を突きつける。
それは少し震えていた。
なんとなく、見てられなくて目をそらした。
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