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「ごめんな、僕は、まだ帰れない」
立河が僕の顎を乱暴につかんで自分のほうに向ける。
「は? 何だって?」
「創ってみるよ、明日」
「どの口が言うのさ! このっ! 一体何年待ったと思って…」
顎に爪が食い込むほど強く握る手は、相変わらず震えていた。
「もう少し待っててくれる? それだと僕は嬉しいんだけど」
立河の手が顎を掴むのをやめ、ゆっくりと正常な位置に戻っていく。
大きな瞳に溜まる涙は重力下でもがく。
「ほら、ね、動き出した」
「うん?」
「大丈夫、もうきっと、きっとね…」
彼女の頬を伝う涙を取り去りたくて手を伸ばす。
届かないまま、意識は別の場所に飛ばされていく。
僕の頬にも涙が伝い、その気配で覚醒した。
すぐ横に置いたコミックスの輪郭がうすぼやけて見える。
手を伸ばして、その表紙のタイトル文字に、何度か目をこする。
『京ちゃんの明日』
何故だか、肺の奥からふうっと空気が抜けてきた。
そして、文字をなぞればまた、涙が幾筋か流れ落ちた。
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