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最後の夏休み
「最後の夏休みなのに、彼女放っておいていいの?」
わざとそんなことを言った、十年前の夏休み。
本当は最後の夏休みもやっぱりこの街に来てくれたことが、嬉しくてたまらなかった。
気付けば十六歳だった圭人は二十二歳に、十一歳だった渚は十七歳になっていた。
「彼女なんていないよ?」
「ウソ、いるじゃない。去年の夏に来てた可愛い子が」
「あー、あの子とは別れたよ。だから今は本当にいない」
「ふーん・・・そっか」
渚は精一杯平然を装ったが、本当は心の中でガッツポーズをしていた。
圭人には自分と正反対の色白で小柄な可愛い彼女がいると分かってても、何年も募らせた想いは簡単に消えることはなかった。
この夏を迎えるまで、かなりの切ない想いを抱えてきた。
「最後にみんなで写真を撮ろう」
父がそう言ったのは、圭人が最後のシフトを終えたあとだった。
この時、圭人も湊も東京の会社に就職が決まっていた。来年からは今までのような夏を過ごすことはできない。
だから父は、わざわざ近所の写真館のおじさんを連れてきて、海の家の前で写真を撮った。
これが圭人と一緒に撮った、最後の写真になった。
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