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あの頃の写真
主を失った部屋は、まるで色が抜けた一枚の絵画のようだ。
佐藤渚は、古ぼけた父の部屋を見てそう思った。
昨夜、三年という長い闘病生活を終えて、渚の父は永遠の眠りについた。
サーフィンが趣味の、一年中小麦色の肌をした、根っからの海の男だった。
しかし最後は、元気だった頃の父の姿とは想像もつかないくらい痩せこけて、色が白く、弱々しい姿でこの世を去った。
渚は元気だった頃の父の姿を思い浮かべながら、本棚を漁る。
最後の写真は、元気な頃の日焼けした父がいい。
アルバムをいくつか見つけ、ページをめくる。
様々な写真と共に、蘇る思い出達。
瞼を濡らしながら、渚は写真を探していく。
「あ、この写真・・・」
ある写真を見つけて、ふと手が止まる。
その写真は、ちょうど十年前の夏の写真だった。
渚と兄の湊、父と、そしてその隣にいる白いTシャツの似合う青年。
四人で当時父が経営していた、海の家で撮った写真だった。
「圭人くん・・・」
渚は父の隣に写っている青年の名前を懐かしそうに呟くと、一筋の涙と共に、十年前を思い出したーーー。
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