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ずっとずっと
「渚、圭人と話せたの?」
「ううん、もう帰ったみたいで・・・」
「なんだよ、あいつ。久々に来たんだから、声ぐらいかけていけよな」
お焼香した圭人を見つけた後、本当はその場を立って追いかけて行きたかった。
しかしそんなわけにも行かず、渚は心ここに在らずといった状態で、式の後半をやり過ごした。
全て終わった後に辺りを探したけど、もう圭人の姿はなくて、渚はあの圭人は幻だったのではないかとさえ思った。
「渚、色々疲れただろ。今日はもう帰って休みな。俺もあとから戻るから」
「うん、ありがとう」
湊にそう言われて渚は、誰もいない家に戻る。
かつては湊と父と三人で暮らしていたこの家も、父が亡くなり、湊は東京で暮らしているため、渚一人になってしまった。
一人ぼっちになると、急にその事実が寂しくて寂しくて仕方がなくなり、渚は家の前で泣き崩れてしまった。
「なーんだ、やっぱり渚は泣き虫なんだな」
そんな声が後ろから聞こえてきて、渚は涙をふいて必死に振り返る。
「・・・けいと・・・くん?」
そこには黒い喪服を着た、三十二歳の圭人が立っていた。
「さっき葬式で泣いてなかったから、大人になったなーって思ったんだけど。やっぱ渚は渚だね」
「・・・なんで?」
「なんでって。待ってたんだよ、渚が帰ってくるの。湊に聞かなかったの?」
「なにもきいてないよ・・・」
渚の瞳からは混乱で、さらに涙が溢れてくる。
「とりあえず中に入れてくれる?」
「うん・・・あ、まって、塩」
渚は鞄から葬儀場から貰った塩を取り出した。
背の高い圭人にも背伸びをして、上から塩を振りかける。
すると渚はバランスを崩して、よろけてしまった。そんな渚の体を、圭人は咄嗟に支える。
「あっ、ごめ・・・」
渚が急いで体を離そうとすると、圭人はあの時の同じように渚の体を引き寄せて、キツく抱き締めた。
「・・・会いたかったよ、渚」
渚の耳元で圭人が呟く。十年前と変わらない、優しい温もりが全身を駆け巡る。
「私だって、会いたかったよ・・・?」
あの頃は何も言えなかったけど、今度は後悔したくないと、渚は思い切って素直に気持ちをぶつける。
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