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「あー、渚、ずるいなー。なんでそんなに綺麗になってるんだよ。せっかくあの時、必死で諦めたのに・・・」
圭人はそう言うと、さらに強く渚を抱き締める。渚は十年前のあの夏がフラッシュバックしてきて、胸が苦しくなる。
「ごめん、あの時諦めたって・・・?」
「・・・本当は俺、ずっとずっと渚が好きだった。本当は東京に連れて帰りたかった。俺だけの物にしたかった」
「うそ、だって私の事なんて、相手にしてなかったじゃん・・・」
「湊に言われたんだよ。お前は渚の全部に責任持てるのかって。あの時、まだ渚は未成年だったし・・・確かに俺のせいで、渚の未来や選択肢が狭まったらいけないなって思ったんだ。だから・・・興味のないフリをした」
「そんな・・・お兄ちゃん、何も言ってなかったよ?」
「俺が何も言わないように頼んだから」
自分と圭人が両想いだった・・・。
その事実も、そして今ここで自分を抱き締めている三十二歳の圭人も、渚には夢みたいで何も考えられない。
「この十年間、他にどんな人と付き合っても、頭のどこかには必ず渚がいて。忘れないとって思って、この街にも来ないようにしてたんだけど・・・忘れられなくてさ。笑えるでしょ?」
「笑えない、全然笑えないよ・・・」
「そっか・・・こんなおじさんに想われてもキモいよね?ごめん、ごめん」
そう言うと、圭人は少し困った顔をして、渚から離れようとする。
しかし渚は離れていこうとする圭人を強く抱き寄せて、静かに続けた。
「私と全く同じだから笑えないんだよ・・・」
「え?」
「今も好きって言ったら笑う?」
「・・・笑えないな。俺と全く一緒だから」
圭人はそう言うと、渚の唇にそっと自分の唇を重ねる。
少し歳をとってしまったが、そこには十年前と変わらない二人の姿があった。
「うわっ、しょっぱい」
「あはは、塩、ふったからね」
「おじさんが嫉妬してるのかな?」
「そうかも。見てるよ、きっと」
「渚・・・、もう絶対離さないから」
「うん」
「俺と・・・結婚しよ?」
「・・・はい」
二人は見つめあって優しく笑い合うと、再び唇を重ねた。十年分の想いをぶつけ合うように、深い深い口付けをした。
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