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青空へ
「渚ー、写真みつかったー?」
そんな湊の声で、渚はふと我に帰る。
最後に圭人と撮った写真を見つけたせいで、胸の中に大切にしまっていた思い出が、一気に溢れ出てしまった。
あれから渚は何人か男性と交際したが、どうしても心の片隅に圭人がいた。
忘れられない初恋の人ーーー。
そう言うと聞こえはいいが、渚にはもう呪いみたいにも思えてきて、最後に会ってから十年も経つというのにまだ色褪せない思い出が、苦しくて仕方がなかった。
圭人はきっと年齢も年齢だし、結婚でもして幸せに暮らしてるのだろうと、渚は思っている。
そして自分だけこの街で、まだあの十七歳の夏から時が止まっている気さえした。
「あ、うん、何枚か見つけたよ。このあたりなんてどうかな?」
部屋にやって来た湊に、平静を装って、何枚かの写真を見せる渚。
「やっぱ親父は、この頃の日焼けしたサーファーのイメージが強いよな」
「うん、そうだよね」
「よし、じゃあこれにしよう。これが一番親父らしい」
そう言うと湊は、サーフボードを抱えて笑う父の写真を選んだ。
「俺、今から葬儀の打ち合わせしてくるから。渚はきっとお線香あげに来る人いると思うからさ、おばさん達と家にいてくれる?」
「うん、分かった」
「じゃ、行ってくるわ」
湊は選んだ父の写真を大切そうにクリアファイルに入れ、葬儀場へと出かけて行った。
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