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滴り落ちる汗。ギラギラと照りつける強い日差し。耳を(つんざ)くような蝉の大合唱中、 建物の入り口でペットボトルの水を一気飲みし自動扉の前に進み出る。その場で感じるのは前方から感じる涼しい空気と白い壁、リノリウムの通路。私は真夏の日差しを後に建物の中に逃げ込んだ。 目的の部屋の前に立つ。カードキーを翳すとカチッと小さな音がした。薄暗い明かりの部屋からむわっと篭った熱気と古い紙の匂いが私に襲い掛かる。私は背後の冷房の効いた空間に一瞬後ろ髪を惹かれるもそのまま黙って入室した。 誰もいない図書室で額や首筋が即座に汗ばみ始めた。たまらず窓際に歩み寄り窓を開け放つ。先ほどは暑いと思った外の空気が冷気となって流れ込む。壁の古いポスターが風に煽られる音だけが響く中、今日も少しの間だけ読書をする事を許された。 図書室で過ごす時間。それは大人になって忘れていた穏やかな時間の一つ。しかし図書室が与えてくれるもの。それは安らぎなのか、幻想なのかわからない。
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