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「……なに?戦地に向かっただと!?──」
古い調度品が飾られた室内で驚きを含むそんな声が響いていた。
重ねられた書類に次々に判を押すザイードの動きが暫し固まる。
我が国、ファジュル王国が同盟を結んで間もない共和国。
そこは、内紛の絶えない本国からやっと独立したばかりの小さな国だが、湿林が広がる農業が盛んな地域でもあった。
豊富な農林資源は国にとっての貴重な収入源である。だからこそ属国としては喉から手が出るほどに欲しい土地だ。
それ故に、昔のファジュル王国と同じく多くの争いに巻き込まれていた。
昼を前にして国務に励んでいたザイードは目の前に立ち、事を伝えたターミルを見上げている。
「国王はなんと言っているっ?」
「……その事に関しては今のところ軍の司令部とアサド様に委ねております」
「……司令は?本部の指揮を取るのは誰だっ…」
その追及にターミルは少々気まずさを浮かべると口を開いた。
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