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それまでキヤーナは気付かなかった。
自分が殺してきた敵がただの罪無き民であったことを。
そして、褒美のパンをくれた優しい政府の人間が、どれだけ民を苦しめてきたかを。
それを初めて知った時──
キヤーナは酷く自分を憎んだ。
いいようにずっと騙され使われてきた自分の愚かさをキヤーナはひたすらに憎み、銃で狙われながらも死に物狂いで国境を越えて逃げ出した。
反政府軍が勝ち、自由を獲たと聞いたのはそれから何年も後だった。
レジスタンスが守り抜いたその土地は何とか持ち直し、細々ではあるが他国と交易を出来るまでに発展した。
だが、この政府の拠点だけは荒れきったままだ──
これこそがこの国をこの男が長く率いた結果であった──
「もうしばらくしたら我が国の次期国王がお見えになる」
「我が国…っ?…」
「お前の行く末はその御方が決める」
この国の有り様に嘆いた自分自身がこの目で見定めた国王だ。
次期国王──
ザイード王子は一体どのような采配を振るのだろうか。
この欲肥りした醜い男を一体どう扱うのだろうか──
キヤーナはその想いを含んだ視線をイザークに静かに投げ掛けていた……。
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