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夜の湿原は闇の中でひっそりと息づく。
そこでは小さな虫の羽音さえも鮮明に感じる程だ。
草木は風に揺らされ、まるでさわさわと噂話をしているようでもあった──。
「……つ…っ…」
微かに呻く声がする。
騒音が響く上空とは真逆に静かな湿原で、闇に埋もれ何やら黒い陰が動いていた。
意識が戻った途端に酷い痛みに襲われて顔をしかめる。
どこがどう痛いとも知れず、ゆっくりと呼吸をすることさえ苦痛だ。
月の光が届かぬ林の中。今の時刻はいったい何時なのだろうか。
やっと動く顔を仰がせてみたが頭上は生い茂った木々で塞がれ、微かに漏れた月明かりがちらつくだけだ。
「……ふっ…」
諦めたように目を閉じると、急にそんな笑いが零れていた。
「……我ながら中々しぶとい奴だ……」
ぼそりと呟く。
痛みはどんどん酷くなる。どうせならずっと気を失っていたかった。
だが、これもまた──
神が与えた運命なのだろう。
認めざるを得ず、アサドは額に手を当てたまま静かに笑みを浮かべた。
その表情が少しずつ素に戻っていく。
「………」
あいつらは無事に逃げ延びただろうか──
アサドは飛行中の出来事を思い出していた。
「見つけたぞ!渇れ谷に身を潜めてる」
逃げ遅れた一人の兵士を見つけ、アサドは直ぐに無線で報せた。
意外にも早く見つけることが出来た。
アサドが少し捜索範囲を拡げたことで、敵地である無人の渇れ谷に身を潜めていた部下を発見していた。
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