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「伏兵が潜んでる恐れがある──…俺が囮になるから急いで向うように伝えてくれ!」
アサドは後方で待機していた援護部隊に指示を出すよう本部に伝えると、一旦その場から離れた。
目立つ輸送機が近くを飛んでいては、逆に敵に隠れていた部下の位置を知らせてしまうからだ。
だが、援護部隊に気付いた敵は空を飛ぶ輸送機よりも狙いやすい地上を行く部隊に狙いを定めていた。
「──っ!?…」
気付いたアサドは、砲撃態勢に入った戦車に真正面から向かっていった。
上を向いた砲身は輸送機の胴体と接触し、アサドの乗った輸送機はバランスを激しく崩した。
機体の異常を感知したランプが本部で点滅する。
「大丈夫ですか少将っ!?」
「機体を破損した…っ…直ぐに脱出する」
そう応えたがアサドが墜落していく輸送機から脱出した姿を、援護に向かった仲間の部隊は確認することが出来なかった……。
アサドは溜め息を大きく吐きながら、自分の左ふくらはぎを見つめる。
しかし、今は真っ暗で何も見えない。
あの時煙りを上げ、確実に墜落するとわかっていた輸送機からアサドは脱出を計った。
だが、接触した際に胴体を砲身に抉られたお陰で破損した機体の鉄板に足がしっかり挟まってしまっていた。
もがいて強引に足を引き抜いたがパラシュートは開く間も無くアサドの身体は湿原の中へ落下した。
幸いにも落ちた高さが低く、生い茂った木々がクッションの役割を担ったようだ。
身体中あちこち痛む。だが痛むのは感覚があるという証拠でもある。
アサドは唯一、痛みの鈍い左足の膝上を布で強く縛っていた。
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