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「美味い酒なんて飲んだことないって言ったら“じゃあ今度連れて行ってやる”って……」
二人五組に分かれて歩き回りながら語ると相方は、ははっと思わずその話しに笑って返した。
だが…もう叶わぬ約束だ──
笑っていた口許が微かに歪んで震える。
「たぶん、すげえ上等の酒だぜ…なんてたってあの人が奢ってくれるんだからよ…っ…」
諦めきれないのは酒ではない。
寝食を共にしてきた確かな仲間だ。
上司であり、兄貴のような存在であり、とても厳しいながら、家族のような強い絆があった。
「はああぁ…っ…飲みたかったな…っ…美味い酒っ…」
震える溜め息を吐きながら目尻を伝った涙を拭う。
そして思いきり鼻を啜った。
「美味いかどうかは飲んでからのお楽しみだな──」
「──…っ!?…」
何処からかそんな声が聞こえた。
思わず身構えて周りを激しく見回す。
兵士は辺りの蔓草や木々をかき分けて、そこに仰向けになっていた上司を見つけた。
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