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「ああ。……カーディル大佐の教えだ」
「カーディル大佐の……」
「“豚は命を繋ぐ……腹が減ったら迷わず食え”──てな…」
くくっとさも可笑しそうにアサドは笑みを浮かべ続ける。
身体中が痛いが笑うことが止められない。痛みに顔をしかめ、そして急に真顔になると
「これで焼いて食ったら美味かった」
「……っ…」
アサドは胸に忍ばせていたライターをポイッと、投げて寄越した。
黒い野豚の小さな子供。内臓を捨てて薄く切った身を一切れずつ焼いて口にすれば、アサドも思わずその美味さに驚くほどだった。
話を聞いて顔をしかめたその部下はあの日、カーディルの教えを聞かされた自分とそっくりそのままの表情だ。
「美味い物を知らぬは損だな」
一言言ってまた吹き出すと腹を抱えてアサドは笑う。
「はあ…っ…何処が痛いとも言えん…」
痛いがやっぱり笑いは止められない。
アサドはそんな自分を見つめて密かに呆れる部下に真顔を向けた。
「今の言葉は覚えておけ──…役に立つ日がくるかもしれん…」
そう口にするとアサドはやっと笑いの収まった身体を休めるように深い溜め息をついていた……。
プロペラの音が遠くで鳴っている。
ずっと気を張っていたアサドは騒がしいその音に安心を覚えながら、そのままゆっくりと目を閉じていた。
部下の誘導する声がしている。担架に乗せられ身体をベルト固定される感触を微かに感じながらアサドはそのまま眠りに就いていた──
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