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またしばらくして、彼女を真似て語りを行うとしてみたがどうにも上手くいかなかった。どうやら私は運命とやらが見えないようである。されば彼女の語りを聞くしかない。
何夜目か、百は過ぎた気がする。いや万も既に過ぎたか。わからなかったが、そんなことはどうでもよかった。また今夜も彼女の語りに耳を傾けるだけである。
「何時しか、魔神は姫の呪いを解いていたのです」
彼女の声はもう私に対する恐怖も、戸惑いも感じられなかった。今までのように動きに迷いもなく、全身を使って物語を表現していた。
どうやらこれは夢のようである。ランプの光りが反射する外の深い黒を見ているとなんとなしに気がついた。彼女はそのことを知っているようだった。
「これは、私の夢だな」
「その通りでございます。魔神の王よ」
自分は魔神等と言う大層なものではない気がしたが、夢の住人にとっては私は世界の支配者とも言えたのだろう。
彼女の瞳に、また怯えと恐怖が見えた。私が夢から覚めることが恐ろしいのだろうか。
「魔神よ。わたくしを解放して下さいますか?」
気がつかぬ間に私は彼女を縛っていたらしい。それもそうかもしれない。私は自分の夢に出てきた彼女に恋をしたのだから。
彼女の楽曲のような声に、金の糸のような髪に、蒼い玉のような瞳にそして彼女の物語に恋をしたのだろう。
「ふむん……夢以外でお前と会う方法は無いのか?」
「もちろんございます。わたくしの物語を運命をあなた様が描けば良いだけでございます」
私が物語をつくれるとは思えないが、彼女が出来ると言うと出来るような気がしてきた。
外の闇夜はゆっくりと明けがかっており、彼女の金の髪のような朝日が屋敷を照らそうとしていた。
彼女ははじめて私に心からの笑顔を見せると、歌うように呟いた。
「わたくしはあなた様が描くまで、ずっと待っておりますね」
意識が途切れる。どうやら夜が明けたらしい。
◆◆◆
ふと目を覚ますと、枕元に見覚えのない本が何冊も転がっていた。どうやら昨日買ったまま読みもせず散らかしたらしい。
ふと一冊を手に取ると、なんの気はなしにパソコンを起動した。
なんだか無性に私も物語を書きたくなったのである。
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