百万年たっても君を忘れられない

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 暗い闇が世界を食らってしまったかのような夜だった。深い闇に色も見えないほどの夜の中、私は月の見える丘で、彼女と並んで空を見ていた。  彼女は黒い濡れたような黒髪を膝に垂らした、空の月より白い肌の美しい女性だった。夜の柔らかな風が私を抱き締め、海の波のように彼女の髪が揺れた。それは天鵞絨(ビロウド)のような輝く黒であり、私には星の海のように見えた。  貴女の朱色の唇が少し震え、瑪瑙のような瞳が私を見つめた。その瞳に見つめられると、私は目が離せなくなり夜の静寂の中二人で見つめあった。彼女は私を優しく、そして遠いものを見るように見ていた。 「もう、行くのかい?」 「はい、私は月に帰らねばなりません」  その月のような女性は、夜の闇に映える白く美しい着物をふわりと揺らした。桃のような柔らかな甘い薫りが私の鼻をくすぐった。  彼女と出会えたのに、また別れなければならないことが堪らなく苦痛だった。出来ることならば、このまま彼女をさらい、夜の闇の中に消えてしまいたいほどだった。 「また、会えるかな」 「ええ、きっと」  彼女はそういって、春の花がひらくような微笑みを見せた。その笑みを見ると、なぜだが私も気が落ち着き、また会えるような気がしてきた。  ゆっくりと月が近付いてくる。彼女と過ごせる時間はもうあまり無いのだろう。星々が涙を流すように瞬いた。  先ほどまでの、何もかもを覆い尽くす夜闇は消え去り、月の銀の光が辺り一面に満ちた。  彼女の足元の花も、丘の周りに立つ木々も、そして月を見上げる私たちも全てが月によって輝いていた。  彼女はほうっと一つ息を吐いて、やるせないような、悲しげな笑みを私に向けてきた。私は彼女共にいたくて、なにも出来ない自分がどうにも価値のない鼠のようなものに思えた。  彼女と並ぶ丘も全てが銀の光に覆い尽くされ、彼女の白い着物も、黒の髪も、雪の肌も、全てが銀色に染まったように見え、幻想的な景色だった。
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